飲食開業友の会 | 衣川行政書士事務所

事業計画 価格設定 失敗の原因

失敗の原因|値段がめちゃくちゃやん

安売りは実は経営者のココロの問題

メニューボードの図 Photo by Sunrise Photos on Unsplash

今回も「商売の構造が破綻している」について僕の考えを発表していきます。

破綻ポイントの中から、売価・原価率の話をしていきます。
これは「席数が少なすぎる」よりもあとで改善できるが、問題の奥が深いし、闇も深い。

この記事を読むメリット

値付けのイメージがバラバラだと、お客さんが混乱します。
「なんの店なの?」「いつ使う店なの?」「誰と来る店なの?」ってなります。
そして、高い商品は売れずに安い商品は利益が出ない。
これを改善するとお客さんに店のビジョン、やりたいことが伝わって、

○お客さんが安心する。
○お客さんの記憶に残る店になる。
○利益が出やすくなる。

代表的な破綻ポイント

A. そもそも需要がない。
社会全体の需要がない。
開店した地域に需要がない。
需要の喚起も難しい。
需要があったとしても、想定している売価は到底望めない。

B. 開業した業態の競争が激しすぎて利益が確保できない。
強烈な競争相手に戦いを挑んでしまっている。
熾烈な過当競争のしんどさを経営者が理解できていない。

C. 想定通りにお客さんが来てくれても、利益が出せない。
席数が少なすぎる。
売価が安すぎる。
原価率が高すぎる。
家賃が高すぎる。
経費が掛かりすぎる。
人件費が掛かりすぎる。 

1.値付けの話

商売のなかで、値付け(売価決定)が一番難しいし面白い、と僕は感じました。
計算とセンスとバランス感覚の集合体です。
値付けセンスの鍛え方は別の記事を書きます。

 

「この料理、何円までだったらおいしい?」
いきなり気持ちの悪い質問ですが、僕は妻と外食をしたときに、良くそんな会話をします。
他の人とは気持ち悪すぎてそんな会話はできない。

おいしいものは価格がいくらでもおいしいか?
そんなことはないと思う。


800円のおいしいラーメンが2,000円だとおいしいか?
900円でもおいしいとは思うが。
1,200円になると行く頻度はかなり下がると思う。

どこにラインがあるんだろうか?
しかしどこかにラインがあるはずだ。


飲食店のイメージを最終的に集約するのは価格だと思う。
気の利いたサービス、おいしい料理、おしゃれな内装、落ち着ける空間。
で、イメージの1.5倍の価格だったら、満足して帰れるか?
そのまえに、メニューを見た時点で「高っっけー」ってなる。
おいしいかどうかも、あやしくなる。
お客さんが「納得」できる範囲内で値付けしなくてはいけません。

 

だから、グランドメニュー的なおしゃれなメニューブックは作らない方が良い、オープン当初は。
あとで上からシールを張り付けた価格変更は、剥がしたくなるし(剥がしはしない)だいたい高くなってる、気がする。
小さなレストラン、居酒屋、ダイニングなら、すべての料理のメニューは日替わりでも良い。
日付をいれるとなおのこと。
僕は居酒屋経営時にそうしてました。
手作り感と鮮度を演出できる。すべてのメニューが毎日変わることによって、黒板等の日替わりメニューよりも数倍価値がある。(実は毎日変わるのはメニューの中の25%程度)
あと、この方式は仕込みが追い付かなかった商品、仕入れ値が高すぎて断念した商品を消すことができる。
毎日書き換えるのは少し手間がかかりますが、変わらない部分と変わる部分をテープで貼り付けて、変わる部分に日付を入れて、毎日コンビニでコピーしてました。

 

最適な価格設定は?
お客さんが、「ちょっとだけ高いかな?でも、このクオリティーならまた来るね」
がベスト。
この「ちょっとだけ」がまるまる利益に乗る。

高めいっぱいの価格設定の図

これでお客さんを納得させるだけの価値を料理やサービス、店自体に持たせる、のが経営者のお仕事です。

毎日メニューを書き換える方式にすれば、料金改定のお知らせは必要ないと思うし、微調整がしやすいです。

 

飲料の値上げは難しい。
僕は生ビールの価格で店の立ち位置(価格設定・ターゲット層)を図るところがありまして、生ビール550円だとそんなに気軽には行けない価格帯になってきます。
ですので、生ビールの価格はあまり動かさず、その他の飲料の価格を調整するのと、その構成比率を上げていく努力をしていきましょう。
生ビールが高い店は、その「高い店」の印象が残っていますが、その他の飲料の価格はあまり覚えていなかったりもします。

 

ダイナミック・プライシングの可能性
ダイナミック・プライシングとは
消費者の需要と供給に応じて価格を変動させることです。
航空券、宿泊業は代表的。
飲食業は平日は割引して、週末は定価。が現在の限界。
あと、クリスマス限定コースとか忘年会コースとかで利益を確保している。
だが、旅行のパックなんかは繁忙期と閑散期で数倍の価格差がある。
そこまで極端でなくても、それを飲食店に取り入れることはできないか?
繁忙期の利益の最大化と、閑散期の落ち込みの回避。
やりすぎると嫌われるが。
ちょっとの上乗せでも嫌われるのかな?
常連さんは上乗せ回避パスをあげたい。

2.値付けがおかしい店が一定数ある

居酒屋のメニューです。

例えば

サイコロステーキ 売価1,680円 原価500円 原価率29.7%
水菜のおひたし  売価170円 原価50円 原価率29.4%

極端におかしい値付けにしてみましたが、両方原価率は30%弱とそれなりに優秀です。
ここまで極端な例は多くはないが、それに近い店はあります。
そして、こういう店ではサイコロステーキは売れない。
で、ロスになり、原価率を圧迫する。
そもそも1,680円の商品と170円の商品が同じメニューブックに載っていることが気持ち悪い。
僕は。

 

サイコロステーキ 売価1,280円 原価500円 原価率39%
水菜のおひたし  売価350円 原価50円 原価率14.2%

これで良いじゃないか。

 

率で計算すると、かかった原価に3を掛ける、という昔ながらの超絶乱暴な値付けになってしまう。(3を掛けると原価率33.3%)


サイコロステーキ 売価1,680円 原価500円 原価率29.7%  粗利額 1,180円
水菜のおひたし  売価170円 原価50円 原価率29.4%    粗利額 120円

サイコロステーキ 売価1,280円 原価500円 原価率39% 粗利額 780円
水菜のおひたし  売価350円 原価50円 原価率14.2% 粗利額 300円


僕なら、サイコロステーキの量を2割減らして原価400円で
サイコロステーキ 売価1,000円 原価400円 原価率40% 粗利額 600円
これにすると思います。
動きがない在庫が嫌なので。
売価1,680円の場合より3倍は売れるでしょうし。

 

メニューの価格帯を逸脱する商品があると、なんの店かわからなくなります。
僕の行ったことがある中華料理店で一皿300円の玉子料理と、一皿1万円を超えるフカヒレ料理を提供している店があります。
その店はおいしくて老舗なので良く流行っていますが、新しくお店を出すかたは、マネしないほうが良いです。
なんの店かわからなくなります。
「なんの」というのは料理の内容ではなくて、利用シーンです。
会社帰りに同僚とちょっと一杯で行く店なのか、接待で使う店なのか、特別な日を祝う店なのか、日常の晩御飯なのか、です。
いつでも、なんにでも使える店、っていうのは需要がないですし、記憶にも残らないです。

なので、すべて商品の価格を350円~980円として、中心価格帯(全商品の80%以上)を350円~680円とする。
みたいな価格のイメージの統一を図る必要があります。
どうしても価格の範囲を超えてしまう料理は、分量を調整して範囲に収まるようにしたほうが良いです。
ただし、強烈な看板料理で「あの店に行けば絶対にそれは食べないと」みたいな商品、例えば、刺身の盛り合わせ1皿1,580円とかは良いと思います。全体で2~3種類限定ですが。

看板メニューの刺身の盛合わせ

3.原価率の考え方を根本的に変える

ここはかなりややこしい話になるので、忙しいかたは
4.安売りの原因
まで飛ばしてください。
「手間がかかる料理は、原価率5%でも適正な場合がある」って話をします。

飲食店の原価率は30%くらいが適正、ってみなさん言いますよね。

この原価率の原価は原材料費(直接材料費)のことを言っていますよね。
経理上はそれで良いですけど、売価を決めるときにこれでは不都合な場合があります。

例えば、原価率30%を目標にしているお店があったとします。
仕入れ値はめちゃくちゃ安いけど、下処理が大変な魚があったとします。
ほぼ市場で流通しないので、需要がない(知らない)、安定供給はできない。スーパーには絶対にならばない。希少で値段が安い。

そんな魚ってあるの?
海沿いの町なら仕入れるのはそんなに難しくないです。

質問:そんな魚を仕入れて、いくらで売りますか?
ただし、1人前の刺身の量で原価50円くらいだとします。

答え:仕込みにかかる時間によります。

飲食業にはなじみがないですが、製造業の製造原価には
○直接材料費
○直接労務費
○直接経費

○間接材料費
○間接労務費
○間接経費

こんな分類があります。

これを飲食店も取り入れるべきです。
厳密にすべてを取り入れるとかなりややこしいので、

○直接材料費
○直接労務費
○直接経費

これだけで良いと思います。

これをさきほどの魚に当てはめると、

○直接材料費 魚の代金
○直接労務費 その刺身1人前あたりの仕入れに行った時間給 仕込みにかかった時間給 (刺身を切って盛り付ける時間給は省きます)
○直接経費  仕入れに行くために使う車の費用(車両維持費・購入費は省いてガソリン代だけにします)

こんな感じになります。
仕入れに行った労務費は、仕入れた魚の何人前(例えばその日仕入れた魚をすべて料理にすると50人前)で割ると良いと思います。
車の費用も労務費と同じように割ると良いです。


魚の代金 400円 ÷ 8人前 = 50円
その日の魚の仕入れ50人前(50個の料理ができます)
仕入れ総額 5,000円
店長設定時給 2,500円
仕入れにかかった時間 1.5時間(3,750円分)
個数割り店長労務費 75円(労務費3,750 ÷ 50人前)
仕込み時間 (30分で8人前の刺身のサクが取れたとして)店長設定時給2,500円 × 0.5時間 ÷ 8人前 = 156円
ガソリン代 ガソリン150円 ÷ 総仕入れ50人前 = 3円

これを合計すると
魚の代金 50円 + 仕入れ労務費 75円 + 仕込み労務費 156円 = 281円

これで刺身の前の状態のサクができました。
これをいくらで売りましょう。

これに3を掛ける必要はありません。
本来は飲食店の労務費はFL比率のLの部分にあたるLabor(人件費)に入っています。
その人件費部分を原材料に足して原価としているので、40%くらいで十分です。
281円 ÷ 0.4 = 702円
700円でどうでしょうか?

この発想があると安くて邪魔くさい魚を仕入れることが苦になりません。
単純な原価率だと 原価 50円 ÷ 売価 700円 = 原価率 7.1% です。

そしてこの商品は大手チェーンは絶対に出せないし、マネのしようもありません。
安定供給はできないですが、このような魚をいろいろ仕入れることによって、完全に差別化できます。

この刺身、僕ならたぶん850円で売りますね。
他とはくらべられないし、競争力が桁違いです。
50円 ÷ 850円 = 原材料率 5.8%   粗利額 800円
281円 ÷ 850円 = (製造業的な)製造原価率 33%
かなり手間はかかりますが。

これは僕が実際にやっていた手法です。

原価率 30% に縛られていては自由で付加価値の高い商売ができません。
逆に、労務費と経費・原材料費という考えを原価に含めることで原材料の費用が 5.8% でも胸を張って良い商品を提供できます。

ですが、いちいち計算するのはむちゃくちゃ邪魔くさいです。
なので、感覚でやってください。
仕入れるときに、仕込みの手間と売価を考えるんです。
で、仕入れ値の5~6倍以上で売れて、自分の店の価格ゾーンに入っていて、お客さんに提供できる価値がありそうなら仕入れる。って感じです。

まとめると、「手間がかかる料理は、原価率5%でも適正な場合がある」ってことです。

4.安売りの原因

開業当初の経営者はとても不安です。
高単価で勝負できるほどの自信もありません。
お客さんがほとんど来ない日もあるでしょう。
不安で押しつぶされそうになります。
僕にもありました。

で、安売りの誘惑に負けてしまいます。
ダメなのがわかっていても、負けてしまうんです。
そして、やめられなくなります。
ダメ。ゼッタイ。です。

大阪には「あの店儲けてないわー」という謎のホメ言葉があります。
儲けを度外視してお客さんに尽くしている、みたいな意味です。

もしこれからお店を始めようとするかたで、少しでもこの感覚を持っている人がいましたら、すぐに捨ててください。
捨てられない場合は、お店を始めるのをやめてください。
自己犠牲でお店を継続していくことは不可能です。
それでも「尽くしたい」というかたは、自宅に友人を招いてごちそうするか、恵まれないかたに自費で炊き出しをするか、をお勧めします。
そのほうがあなたの心は満たされると思います。

 

「3丁目に新しくできたバルの生ビールが390円みたいやな、じゃあこっちは380円で勝負や」
みたいな感覚で値付けをしている店も結構あります。

昔の中国の偉い人の言葉で「匹夫の勇(ひっぷのゆう)」という言葉があります。
意味は、「思慮分別なく、血気にはやるだけのつまらない勇気。」(goo辞書)という手厳しい内容です。
向こう見ず、自暴自棄って感じでとらえていただけると、良いと思います。

経営者が持つべき勇気は、このような「匹夫の勇」ではなくて、
「値下げをしない勇気」
「値下げをせずに、それ以上の価値を提供する努力をする勇気」
「自分の店、料理には価格以上の価値があると自分を信じる勇気」
です。

安売りがなぜダメなのかは詳しく説明しません。
ダメな理由がわからない人は、吉野家の横に吉野家より安い牛丼屋さんを作ってみてください。
マック(大阪ではマクド)の横に、より安いハンバーガー店でも構いません。
うまくいったら、ご連絡をください。
僕は土下座をしに行きます。
そのあとで、秘訣を教えてください。
ぜひ。

-事業計画, 価格設定, 失敗の原因
-, , , , , , , , ,

関連記事

失敗して真っ白な灰になる

1年以内に廃業する店の特徴1

みなさん一発アウトの飲食店に行ったことありますよね? でも、経営しているほうは一発アウトだって気づいてないんです。こわっ! 飲食店開業の失敗の定義: 初期投資をほとんど回収できていない、かつ、開業から …

枯れた大地

失敗の原因|席が少なすぎる

せっかくの努力が実らない「客席少なすぎ問題」 失敗の話ばかりを書いているので、なぜそんなことばかりを書いているのかを少し説明しておきます。 大失敗しない限り、成功のチャンスがある。 そして成功のイメー …

レストラン

失敗しにくい開業|失敗とはなにか?

飲食店が備えていないといけない機能を備えていない件 この記事を読むメリット ○自分にとって失敗はなにか?がわかる ○成功者の言葉が響かない理由がわかる ○足元を固める重要さがわかる ○最初に努力すべき …

飲食開業友の会YouTubeチャンネルリンク

衣川行政書士事務所

代表 / 行政書士
衣川 耕平 Kohei Kinugawa
日本行政書士会連合会(21260075)
大阪府行政書士会  (008125)

住所
大阪市中央区久太郎町1-9-6 商栄ビル203

電話
06-4256-3793
080-3830-2206

営業時間
平日: 9:00 AM – 6:00 PM
土日祝:事務所にはたぶんいませんが携帯電話にお電話ください。

こんなコロナの時期になぜ飲食店開業のはなしを?と思われるでしょうが、過去の疫病や災禍もそうだったように、人類はこのウイルスを克服できるし、未来は明るい。と信じて準備。

不愉快な思いをされたかたや、事実誤認があった場合などはご連絡ください。
適切な対応ができるように努めます。
お問合せ・クレームは直接お電話をいただくか、お問合せフォーム、またはTwitterのDMにてご連絡をお願いします。